国内UX第一人者 黒須正明先生による連載コラム第三回「客観的品質特性と主観的品質特性」

UX

黒須正明

品質管理における「客観的品質特性」と「主観的品質特性」について紹介し、その関連性を解説します。大別すると「設計時の品質」と「利用時の品質」に2分され、客観的品質特性としては、ユーザビリティや機能性、信頼性など、一方、主観的品質特性は人間の感性に関連するという。これら全ての要素は最終的に「主観的利用時品質」に集約され、製品やサービスの目指す結果は「満足感」であると指摘します。この記事は品質管理に携わる方々に興味深い内容となっています。

[客観的品質特性と主観的品質特性]
今回は、前回お示しした図を参照してください。その図では、上半分に客観的品質特性が、下半分に主観的品質特性が割り付けられています。
客観的品質特性というのは、従来、品質管理で評価指標となっていた特性で、前回もご紹介したように、設計時の品質と利用時の品質に区別されます。まず設計時の品質、つまり客観的設計時品質としては、ユーザビリティ、機能性、性能、信頼性、安全性、互換性、費用、維持性などが含まれています。また利用時の品質、つまり客観的利用時品質には、有効さや効率、生産性、ユーザ特性への適合性、利用状況への適合性、リスク回避性などが含まれています。
その特徴は、いずれの特性も客観的に測定できるということ、つまり外部から観測することができるということです。たとえば機能性は、そのサイトにはどのような機能があり、どのようなことができるかということですし、性能は、画面の再表示にどのくらいの時間がかかるかということだったり、ユーザが情報を入力してからどのくらいの時間で応答が返ってくるかということだったりします。
主観的品質特性というのは、客観的品質特性とは異なって、人間の内側で起きる心の動き、あるいは感性の動きであり、主観的に経験される品質特性のことです。ただ、外部的に表現しなければマネージャなどの関係者が確認することができないので、心理学や感性工学で使われている評定尺度という手法や、人間工学などで使われている生理学的な計測手法によって、間接的ではありますが測定が行われているものです。ここで重要なことは、人間の判断、そこにはUX評価も含まれるのですが、それに最終的に影響するのは主観的品質特性だ、ということです。

[主観的設計時品質と主観的利用時品質]
客観的品質特性が設計時の品質と利用時の品質に分かれていたように、主観的品質特性も設計時の品質と利用時の品質に分かれています。
主観的設計時品質とは、ユーザが魅力的に感じてくれるようにと設計時に配慮し設計を行う側面のことで、図ではそれを魅力としてまとめています。そのなかには、感性訴求性と欲求訴求性が含まれています。感性訴求性というのは感性的な魅力を作りこむことで、表面的な特徴でいえばサイトの色使いやレイアウトの審美性、サイトに使われている写真の美しさやイラストの楽しさの演出などがあります。また、もっと深いレベルでは、そのサイトで表現されている商品などがユーザの感性にどのくらい響くかを考慮する側面で、欲しいと思わせたり、使ってみたいと思わせたりすることです。感性訴求性と関係が深いのですが、もうひとつ欲求訴求性というものもあります。これは、ユーザが抱いている欲求に対して、サイトで表現されている製品やイベントなどがどのくらい適合しているかということで、購入してみたいとか、参加してみたいといった気持ちを引き出すための配慮事項といえます。
客観的設計時品質の場合と同様、主観的設計時品質も、それが高くするように設計の段階で努力しても、主観的利用時品質、ひいてはUXが高くならないことがありえます。可愛いと考えたイラストが気に入らないユーザもいるだろうし、美しい景色と思って掲載した写真が凡庸だと感じられてしまうこともあるでしょう。モダンなデザインが好きな人もいれば、オーソドックスなデザインが好きな人もいます。要するに感性というものは特に個人差が大きいので、設計時に期待したとおりの反応が得られるとは限らない、ということです。
主観的利用時品質というのは、製品やシステム、サービスを利用した時の主観的印象のことです。この中には、客観的利用時品質と関係して、やるべきことがうまくできた結果、達成感が高まったり安心感が得られたりすることが含まれています。達成感は個人的な設定目標のレベルと関係していますから、客観的に同じ水準で課題が達成されても、主観的に達成感を感じる人もいれば、感じない人もいるわけです。安心感も同様で、一定のレベルのリスク回避ができたとしても、それで安心する人もいれば安心できない人もいるわけです。このように、主観的な利用時の品質というものは、客観的な利用時の品質から決定的な影響をうけるものではないし、そこから一意に定まるものでもありません。
また、設計の段階で感性訴求性や欲求訴求性が高められていたとしても、それを楽しいと感じるか、喜ばしいと感じるか、嬉しいと感じるか、あるいは美しいと思うか、可愛いと思うか、好ましいと思うかは、製品やシステム、サービスを利用する人の感性のあり方、いいかえれば感性的判断の基準がユーザの心のなかでどのように設定されているかによって異なるものです。そうした感性的判断の結果が高ければ、また利用したいと思う反復利用への意欲がわいてくるのです。良かれと思って設計しても、いいかえれば受けることを狙って設計しても、その通りにはいかない、というのが主観的品質特性の難しいところです。

[主観的利用時品質と満足感]
これらの主観的利用時品質の指標を総合したものが満足感といえます。満足感というのは経済学では効用(utility)という概念で呼ばれていますが、筆者の研究によると、それらは達成感、安心感、楽しさ、喜ばしさなどの主観的利用時品質のいずれもが行き着く概念で、いわば主観的利用時品質を代表する概念といえます。いいかえれば、客観的設計時品質も客観的利用時品質も主観的設計時品質も、いずれも最終的には主観的利用時品質に集約され、さらに主観的利用時品質を集約したものが満足感だ、ということになります。つまり、Webサイトの設計を含む、すべての製品やシステム、サービスの設計は、満足感を目指しているのだ、ということになります。

 

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